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スタッフによるリレーコラム

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『エンジニアによるベンチャー起業のすすめ』 4月号

エンジニアによるベンチャー起業時代の幕開け XML技術に1億円投資!

イメージ1999年3月17日は、多分日本のベンチャー起業史上で重要な記者会見が行われたと思います。ただ、新聞では、日経産業新聞が骨だけ取上げただけで、大きなニュースとしては取り扱われませんでした。

会見は大手町のKDDホールで午前11時より50人近くの記者を集めて行われました。内容は、「昨年9月に設立されたばかりのXMLソフト開発スタートアップ会社のインフォテリア(株)が、日本テクノロジーベンチャーパートナーズ(NTVP) i-1号投資事業有限責任組合等の投資を1億円受け入れる、」というものです。併わせて、NTVPから、運営担当ベンチャーキャピタリストの私(村口)が、ロータスの菊池相談役と 一緒に社外取締役に就任した事を発表しました。発表者は、インフォテリア(株)の35才の平野社長、ロータス菊池相談役、NTVP出資者の一人である堀場雅夫氏(堀場製作所会長)、私、という顔ぶれでし た。

ハイテク系の記者会見らしく、コンピュータ関連雑誌の記者が押し寄せた事はもちろん、日本で大変珍し い景色であったのは、証券会社のアナリストなども数人来ていた事です。まるで人種の違う(いわゆる文 系と理系の)日本人が同じ部屋の中に居て、「カラフルな個人資本主義」を提唱している私としては、気持ちの良い刺激でした。技術系の専門誌の記者たちにとっては、ベンチャーキャピタリストが注目して投資をした、という事の重要性がピンと来ないみたいだったし、証券会社の人にとっては、まだ第一期の決算数字もないXMLという聞いた事もないインターネットの話に、なぜこんなに技術系の記者が集まっているのか、良く分からないようでした。その場には、技術系雑誌記者、日系証券マンだけでなく、米系証券マンやシリコンバレー帰りの弁護士の顔も見えたし、通産省官僚や、大学人と称する機関投資家よりの人もいて、まことにカラフルな景色を呈していました。

何が日本のベンチャー史上重要かと言うと、独立個人のベンチャーキャピタル投資事業組合が、設立間もないハイテク開発型ベンチャー(インフォテリア(株)はインターネットを変えると言われるXML専業ソフト開発会社で98/9設立)に投資し、またベンチャーキャピタリストが「投資契約」にもとづいて役員で入り、2年程度で株式公開を目指そう、という、いわゆる「シリコンバレー型」と言われるモデルを、そのまま日本で実行している点です。また、優秀な三十代のエンジニアによるスピンアウトのプロジェクトである点も注目されます。そして何より重要なのは、投資家が投資をしたのが、「XMLという分野が今まさに立ちあがろうとしている立ち上がり鼻の領域で、リスクと可能性が混在している前例のないフロンティアを切り開いて行っているプロジェクト」で、どこかアメリカですでに成功事例の出ている分野の真似や焼き直しをしようとしているのではない、オリジナルなプロジェクトであると言う点でしょう(XMLについては次ページ囲み記事中のホームページを参照)。

当事者として弁明させていただくと、何もシリコンバレーモデルなどを目指しているのではなく、一番良い方法を法律にしたがって選択して組立てたら、たまたま流行の教科書が言うシリコンバレーモデルのようになった、ということで、猿真似をやっているわけではない点を強調させてください。

流行(はやり)のシリコンバレーベンチャー論に要注意

シリコンバレーに短期で行った人の困った点は、目隠しをした人が象を触った印象を主張する話と同じで、非常にモノトーン(白黒)の単純な景色をシリコンバレー全体の景色だと、ステレオタイプに言いすぎる点です。例えば、「ベンチャーキャピタリストはもと起業経験者とか凄い能力を持った人しかなれない」とか、「ベンチャーキャピタルに勇気があって、ドンとお金を出すのは、アメリカの国民性の現れで農耕民族の日本人には無理だ」とか、そういう風に信じている人は、何故日本で今回のプロジェクトのような投資が実現しているのか、理解できないでしょうし、シリコンバレーで活躍する人が必ずしもアメリカ人ばかりでなく、アジア人も多く活躍している事実を説明できないでしょう。

事実、私の友人のアメリカ人(カリフォルニア)はつい最近まで、ベンチャーキャピタリスト(資本家)という古臭い表現は、共産主義(コミュニズム)議論が華やかな頃の表現で、今のアメリカではそんな表現は使わない、メリルリンチは有名だが、ロバートソンスティブンス(インベストメントバンク)などという証券会社は、近所の人も誰も知らないから十分気をつけたほうが良い、と私にアドバイスしてくれました。これもアメリカのひとつの典型的な景色なのです。日本よりももっと宗教的に敬虔で、農耕的で、都会が嫌いで、保守的で豊かなアメリカ人もたくさん居ます。

事実、ベンチャーキャピタリストという法的に責任を負った専門家は、アメリカにだって何千人もいないでしょう。それを取上げて、「日本人は全体が農耕民族で保守的なのでベンチャーキャピタリストなんてできない」とまで自嘲するのは、ちょっと行き過ぎです。またアメリカのベンチャーキャピタリストもまさにピンキリで、ベンチャーキャピタリストといえばすべてスーパーマンのように畏怖するのも間違いです。ですから、我々日本人が目指すベンチャープロジェクトは、アメリカ型である必要など無く、そもそも純粋なアメリカ型などといわれているスタイルが、当地にすら標準的にあるわけでない事を、まず心にとめておくべきでしょう。

あるのはただ、「グローバルで過酷なベンチャー同士の競争」のみです。同様に、NTVPで投資したインフォテリア(株)だって、グローバルに激しい競争にさらされています。ハイテクベンチャーの世界は、小さい世界ながら、毎日毎時間世界戦争を繰り広げているのです。ベンチャーキャピタリストは、さしずめ「ベンチャー界に大量な強力ジェット燃料をお届けする戦略武器商人」と言っても言い過ぎではありません。実際の現場では、モデルがどうのこうのとは言っていられない過酷な戦いが展開され、数年もしないでその結果が、明らか過ぎる「明暗」となって現れます。それはそれは恐ろしいほど明解で過酷な結果です。これも古今東西、結果の明らかさは「戦争の勝敗」と同じです。

「ベンチャーのスピード」対「ロミオとジュリエットのスピード」

さて、私事ですが、大学在学中、私はシェイクスピアの演出に没頭し、一年留年をしてしまいました。二浪したのに一年留年を重ね、田舎の決して裕福ではない親父とお袋には迷惑をかけた、と今でも思い出すと心が痛いです。ベンチャー論をシェイクスピアからはじめる事で、実は人間であれば、人種時代にかかわらず、誰でも取り組めるプロジェクトである事をひとつひとつ実証したいと考えます。

後のベンチャーキャピタリストとして、私はシェイクスピアの演劇から多くのことを学びました。学んだ事のひとつは、「人生毎日毎時の現場は戦争だ」、という過酷な、しかし、すばらしい事実です。ローティーンのロミオとジュリエットが出会って自害するまでに、たったの三日しか経っていません。その三日間の間に,いったいどれだけの多くの事件が起こったことか!人間の過ごすたった数日間と言うものが、いかに人間を、そして周囲を変えてしまうものか?

我々はたいがい、読者も含めロミオとジュリエットよりも成人した大人でしょう。読者はエンジニアで、何か研究しているのかもしれません。いつも思うのですが、成人した大の大人が何人か集まって、数ヶ月夢中になってやれば、何かあっと言わせられるような事ができるのではないでしょうか?私は常々、ベンチャーキャピタリストとして、「あらゆるベンチャープロジェクトは1000日で勝負がつく、つかなければ早急に方向を変えるべきだ、」といつも言っています。何と千日です!

ロミオとジュリエットの出会いから自害するまでの美しくも過酷な三日間に比べたら、ベンチャープロジェクトは随分スローモーなのんびりした作業だとお思いになりませんか?シリコンバレーに言う「ドッグイヤー」(犬にとっての2ヶ月が、人間にとっての1年に相当する事から、ハイテク企業にとって2ヶ月が一年分の変化をする事をたとえてこう言う)ですら、非常にゆっくりした作業に思われます。

ベンチャー起業とシェイクスピア劇演出の類似点

私が留年して田舎の両親に心痛を感じる直接的原因となった、大学のシェイクスピア研究会で演出した作品は、「テンペスト」と「ヴェニスの商人」です。この演出体験によって、その後ベンチャーキャピタリストとして経験を積む上で、大変大きな示唆を受けました(ベンチャー起業論はシリコンバレーを参考にするよりも、我々日本人の中にもある人間の本質論から説き起こした方が良いと思いますので、続けます)。

いずれも上演の一年くらい前から演出プランを練ります。上演二時間、登場人物20人、の芝居をどう上演するか、できあがりの姿を想像しながら、主演助演をはじめ登場人物をキャスティングしてゆきます。

上演半年前にキャスティングができると、素人役者20人と芝居を組み上げていく、上演までの練習計画も作成します。練習が始まり、演出家がプランに自信を持つようになるにつれ、衣装、ライト、舞台美術,音楽、上演会場の手配、ポスター作成、チケット準備と販売など、など多次元の作業を同時にこなして行きます。

およそ上演の4ヶ月くらい前から毎日朝から晩まで上演準備にかかりっきりになり、おかげで文系大学にありがちな、合コンやテニスなど浮かれたイベントにはほとんど縁遠い学生生活を過ごしました。寝ても覚めても一本の芝居に半年間というもの、一冊の台本、20人の素人役者と格闘する、という異常な学生生活を、しかも熱中して過ごしました(大学に毎日通っているのに講義には、まったく出席せず)。努力の甲斐あって、1980年秋に手塩を掛け演出した「テンペスト」を六本木自由劇場で上演、満席好評でしたが、その年、親不孝にも留年したという訳です。

この半年に渡る集中作業から、ベンチャーキャピタリストとして経験を積む上で、大変大きな示唆を受けました。ベンチャーキャピタリストとして成功する苦しみも、劇の演出家として成功する苦しみも、たいして変わりません。注意点はほとんど同じです。演出プラン(事業計画)の考え方が間違っていたらだめ、キャスティング(チームづくり)を間違ったらだめ、観客(顧客市場)を読み間違ったらだめ、熱中して上演成功に集中(短期集中)しないとだめ、寝ても覚めても練習(ノウハウの集積)しないとだめ、最終的に観客にチケットを売らねばならず(販売活動の重要性)、観客に満足して(顧客満足度)帰ってもらわなければ、それは単なる自己満足でしかありません。

ベンチャー失敗最大の原因「投資と融資の混同」(人肉裁判)

これは日本でよく間違う、大変重要な話です。間違うと大変危険です。特にエンジニアの皆さんは、この話を良く頭に入れてください。これは、ベンチャープロジェクトの資金調達方法を解明するカギと言ってもいいです。

「ヴェニスの商人」を詳しく読んだ事のある人(そうはいないでしょうが)は、私が話そうとしている「投資と融資の違い」が良くおわかりのはずです。シェイクスピアは、16世紀にロンドンで自ら劇団の出資者となって、劇団を運営するほど商売と投資に長けていたと言われています。

その彼が、「投資に成功するコツ」を描いた喜劇が「ヴェニスの商人」です。日本で「ヴェニスの商人」といえば、それは人肉裁判で騒ぐ「ユダヤ人金貸しシャイロック」の事だと、間違ってイメージしている人が多いです。ところが、この芝居の主人公は「ヴェニス投資家アントーニオ」です。ヴェニス投資家アントーニオが友人のバッサーニオの窮状を救うために、しないはずの借金をし、証書で自分の体の肉を担保に取られていたものだからさあ大変、大騒ぎになるが、最後に投資が結局成功して何重にも回収される、という喜劇です。

この芝居の中には、「投資案件の選び方」から、「投資回収に至るドタバタ」と「当事者でない周囲の人々の慎重な反応」が生々しくも可笑しく描かれています。有名な台詞は、「輝くもの必ずしも金ならず(All that glisters is not gold)」(二幕七場)でしょうか。こういうことは、現代のベンチャーキャピタルの世界でもまったく同じです。たぶん、投資と融資の混同と混乱は、古今東西リスクのある事業に先行投資する場合に、よくある景色なのです。投資と融資の混同は、必ず、ベンチャーの財務に致命的な混乱を巻き起こします。日本のベンチャーの失敗は、たいがいこれです。

投資と融資の違いを整理しておきましょう。

投資
リスクのある将来を見据えて、「一部の経営権と引き換えに、資金を無担保、無保証、返済予約無し、金利無しで提供」し、事業リターンがあれば、その回収成果から配当を受けるか,別の投資家に一部の経営権を売却する事で、回収を図る資金提供方法。(資金リスクは投資家)

融資
リスクある将来を見据えて、「事業そのものとは一定の距離を置き、資金を有担保、有保証、返済計画、金利付きで提供」し、事業リターンがあろうがなかろうが、貸付証書通りに、利息をつけて資金回収する資金提供方法。(資金リスクは起業家)

両者のスタンスが異なることは明らかでしょう。これを混同するから、ばかげた混乱が起きるのです。

開発型ベンチャーは絶対に借入をしないこと『禁止』

ヴェニスの商人を引き合いに出すまでも無く、ベンチャーを経営するとき、間違っても借金をしてはなりません。理由は簡単で、ベンチャーは先端領域の未知な世界であり、どう人知を尽くして努力してみてもそれでも成功する保証はなく、リスクがあるからです。ベンチャーは、最先端な不確実な競争状態における,展開のスピードと柔軟さをその特徴としなければなりません。リスクのある事業であるということは、返済計画がぶれる事を意味しています。そういう領域に取り組む資金を、返済期日と、金利とがある借金でまかなってはいけない、という事です。何割かの確率で成功しないかもしれないベンチャー事業の投資資金を、借金で調達して事業に投入したら、事業家は何割かの確率で破産し、社会人として復活不能になります。これはベンチャーの失敗ではなく、調達方法の失敗です。

こんな単純な論理があるにもかかわらず、政府がベンチャー支援のために銀行に圧力をかけて、ベンチャーに融資をしたら、その結果は悲劇的な景色になります。たいがいベンチャーは、借金をする時物的担保がないので、起業家や開発者が多く「保証人」として捺印させられます。政府の資金は、基本的に税金か郵便貯金で安全運用を旨として貸付が行われますので、常識的に保証人が必要です。これは仕様がありません。これをエンジニアが「やっと技術が評価され、借りられるようになった」と喜んで保証人になり、借金をしてベンチャー事業を展開し、お金が返せなくなると、保証人になっていた人が社会的に復活不能になる、ということです。いったん借りたお金が返せなくなったベンチャーは、同じ借金を繰り返し、資金繰りは追加借入をしないと倒産する、いわば自転車操業になります。多く日本の失敗技術型ベンチャーの資金繰りは、こうなっています。もはや、エンジニアの人生は開発どころではありません。

借金を負ってリスクのあるベンチャーをしようとした、最初からわかっている失敗です。以上より、エンジニアの皆さんが頭に叩き込んでおかなければならない事は、以下の通り。

「たとえ政府が後押ししていようが、リスクのあるベンチャー事業に対し、読者は絶対に借金をしてはいけない。」(「ヴェニスの商人」における投資家アントーニオのように死にそうになります!)

逆にいえば、「ベンチャーは、リスクあるベンチャー事業に対しては、投資家から投資を受けて、思いきりチャレンジすべき」です。

これが十分解らない読者エンジニアは、絶対にベンチャーをやってはいけません。分からない人がやると、多くの人を巻き添えにして、起業社会が混乱で歪みます。いわんや、ベンチャーにもっと銀行が金を貸すべきだ、というのは暴論です。(ベンチャーがすでに間違って借りて失敗している場合はちゃんと貸した責任を取って、政府が応援すべきだ、というのには賛成いたします。)

ベンチャー投資事業組合(ベンチャーキャピタル)の大変革

1998年11月、ベンチャー起業の仕組みとして、革命的な法律が施行になりました。それが「中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律」です。この法律によって、日本の篤志家、公的年金などのお金をベンチャー投資の基金として大量かつ長期に渡ってプールし、独立的にベンチャー起業活動に投資をできる法的環境が整いました。

投資家からすると、ベンチャー投資には危険が付きまといます。どんなに人知を尽くしても、未知の競争相手や新しい技術の出現まで読み切れない部分が残ります。しかも上場企業と違って失敗だと思っても容易に売却することができません。先端分野であればこそ可能性も大きいかわりに、変化が早く、投資家としてのフォローができません。それを専門家であるベンチャーキャピタリストに任せ、資金をベンチャーに投資をしようという法的仕組みがこの法律です。

この法律によって、日本にも本格的なエンジニアによるベンチャー起業が可能になりました。

エンジニアによるベンチャー起業モデル「PVP」

NTVPは、新しい日本におけるベンチャー起業モデルの事をPVP(Programmed Venture Project)と呼んで、モデル化しています。その段取りと手順を以下に示しましょう。

1. 純粋な発展への強い思い(来る日も来る日も粘り強く考え思う=個人の強化)
・来る日も来る日も粘り強く考え思うことは、ハイテクであろうがなかろうが必要です。

2. 基本的な気になる「大問題」は、1年くらいかけて、出きるだけ早く解決する

3. 現状分析(特に人材能力、環境)を基にした、株式公開可能な売れる事業シナリオの選択 
・新しい株式公開の観点=投資家へ魅力のアピール=産業社会的インパクト有りや?
・ビジネスモデルの構築(同じ事業でも、それにより必要資本・人材・組織に差)
・「密やかな検討期間」が、大いなる飛躍のためには重要な事がある(情報オープン必ずしも最善ならず)

4. 株式増資による借入によらない事業資本の調達シナリオ検討
・資本はその気になれば増資で数千万円から数億円調達可能(資本政策)、中途半端はだめ。
・相談相手が重要(株主政策は非常にデリケートな問題)5.事業計画の策定、投資家(ベンチャーキャピタル)への提示・交渉・個の意思決定
・徹底した開示が前提=監査法人の監査、市場分析、財務計画(5年で公開前提)
・個の意思決定には、家族、特に配偶者の納得が重要
・投資契約(合意書)の締結

6. ファイナンスの実行=外部株主との共同作業がスタート=取締役会の充実=計画遂行

7. 契約類の整備の必要性(特に技術系ベンチャーは重要)

8. 株式公開の準備、審査・PR活動(開示のための、組織管理体制の独特の整備)

9. 株式公開(一般投資家売買開始)→公開会社としての活動→更なる変転・発展

10. M&Aによる買収も売却もあり得る(個人が根本、「会社」はベンチャープロジェクト実現のフレームに過ぎない、という冷静な認識が重要)

エンジニアによるベンチャー起業からもたらされる社会的恩恵

今、メーカを中心にリストラの本格的な嵐が吹き荒れておりますが、大企業が産業の中心的役割を担っていた時代が終わりつつある、と考えれば不思議でもなんでもありません。10年ほど前、まだコンピュータの世界をIBMが牛耳り、インターネットと言う言葉が世に出る前まで、世界の半分は大企業が動かしていたと行って過言でないでしょう。ところが、インターネットの登場とCPUの高性能化低廉化は、ビジネスのスタイルを一変させてしまいました。すなわち、ベンチャーでなければ成立し得ない最先端の産業分野がシリコンバレーを中心に続々登場したのです。この先端分野は見た通り、大企業の合議制に向きません。また、成功事例が出てからキャッチアップする、という日本のお家芸はもはや通用しません。成功事例が出た時はもう、勝負は終了しているのです。最先端の分野で日本がこれからやって行くためには、どうしてもベンチャー起業プロジェクトが多数登場する必要があります。

また日本には膨大な数の最先端のエンジニアが大企業を中心にいます。この人たちが(すなわち皆さんが)プロジェクトを開始すれば、全体の数にして100や200は出てくるでしょう。このプロジェクトが、社会に雇用を創出します。いま、アメリカでは最先端のベンチャーが大量の雇用を生み出し、失業率を下げています。(ちなみに大企業の雇用吸収力は横ばいか低下気味だそうです。)

このように、日本におけるエンジニアによるベンチャー起業の恩恵は、まず日本という経済社会全体が享受する事になるでしょう。

エンジニア自身への恩恵(もうけ)を検証する

次に、創業者たちに対する経済的恩恵です。土地神話が崩壊した今、日本でお金持ちになる方法は、企業を創業し、株を公開してキャピタルゲインを実現するしかないと言われています。その理由の第一は,投資家によって会社の儲け以上に投資家からプレミアムがつく、という点と、第二に、圧倒的に税金が安い(儲けに対して手取りが大きい)という点です。

簡単に試算しましょう。仮に創業5年で売上50億円、経常利益4億円、当期利益2億円で株式公開したとしましょう。公開時発行済み株式数を500万株、創業者(あなた)の持ち株比率を40%(200万株)とします。そのとき事業の魅力から見た投資家人気によりけりですが、会社の値段は、30億円〜100億円といったところでしょう。仮に60億円だったとしましょう。

以上を仮定して、創業者であるあなたが持ち株を売ったらいくら手元に残るか計算しましょう。公開したときの会社の値段が60億円で、発行済み株式数が500万株ですから、株価は60億円÷500万株=@1,200円です。あなたは持ち株が200万株ですから、あなたの持ち株の値打ちは、つまり24億円です。税金の詳細は省略しますが、この持ち株を売却するときにかかる税金は、売却額の1%(たったこれだけ!)です。ですから、あなたの手取りは24億円×(1−0.01)=23億7600万円です。

これが5年間で実現したのですから、23億7600万円÷(5年×12ヶ月)=3960万円/月、ということで、月に3960万円(給料以外に!)稼いだ事になります!

ここで注意していただきたいのは、この会社の経常利益が4億円に過ぎなかった事で、仮にあなたが4億円給料もらっても所得税で持って行かれて、手取りは1億円強に過ぎない、と言う点です。給料で取ろうとする場合と、株式を投資家に買ってもらう場合と、なんと20倍の手取りの開きがある、という算数を、よく頭に入れておいてください(シリコンバレーのエンジニアが裕福な訳です)。

この計算は、従業員にも成り立ちます。仮にあなたの十分の一、すなわち4%持ち株比率をもっていたとしますと、全部1/10で計算すれば良いのですから、従業員が20人だとすると、平均2億3760万円÷20人=1188万円/人、ということです(もちろん給料以外に!)。また、ストックオプションという便利な仕組みも徐々に整備されています(今回は詳細は省略)。

アメリカのNASDAQに公開する会社の例を引くまでも無く、赤字の会社でも投資家から人気を博すると巨大な価値を生みます。つまり、投資家が評価すれば、赤字の会社でも、また創業すぐでも株式公開可能です。

エンジニアによるベンチャー起業のすすめ

これまでの議論を見た通り、エンジニアによるベンチャー起業の時代が目の前まで来ています。どうぞ従来のパラダイムに縛られる事無く、また従来のスーパーマン的なベンチャー論に惑わされる事無く、心静かに瞑想し、あなたがベンチャーを創業する可能性について、検証されることをお勧めいたします。ロミオとジュリエットに負けない様に!

日本テクノロジーベンチャーパートナーズ(NTVP)投資事業有限責任組合
ベンチャーキャピタリスト 村口和孝
※禁無断転載。全ての著作権は著者に属します。

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